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シン・爪 [つれづれ]

2年ほど前、派手に転んだ。

そのころ、SNSで奇特な人が発信してくれる繁華街の美味しい店を見るのがすごく楽しみだった。

私が住むところからでも行ける場所にあるいろんなジャンルのお店を紹介しているあるSNSがお気に入りで。

ある日、何の予定もないことに気づき、「載っていた店に行ってみたい」と思った。

ずっと気になっていたラーメン屋さん。

スープは金色に透き通っていて、整列したこれまた黄金色の麺がそっと湯あみをしている。

具はわりとシンプル(具の記憶が飛んでいる…青物の茹でた野菜とシナチクだったかな)。

思い立ったらなんとしてもそこに行きたくなった。

 

繁華街の路地裏にあるこじんまりとした店に到着。

椅子に座った瞬間に「あぁ私はトイレに行きたいんだった」と思う。

金色&黄金色ラーメンをこころゆくまで楽しむために先にトイレに行っておきたい。

場所をたずねると店を出た別の場所だといわれる。

その時ほんの少し、心に雲がかかったような気持ちになった。

外かぁ…という感じだったのか。

しかし尿意はどんどん加速しているので、トイレに行くことにした。

尿意を解決したわたしに悲劇が訪れる。

店に戻る道で転んだ。

突起も石ころもない平坦なアスファルトだったんだけど。

全体重が履いていたローファーの先端にかかり、必死で転ぶのを阻止する脳みそからの指令。

でも転んだ。

近くを歩く親子連れが「あーあ」と言った。

こういう時、【今、ワタシ確かに転びました。転びましたけど、なんともないんです、ホント】みたいな雰囲気で立ち上がることってありません?

この時、私はそんな演技をしてたなぁ。

店に戻って何食わぬ顔で椅子に座るとほどなく、金色黄金色の食品が目の前に置かれた。

何事もなかったかのように座ったけど、ずっと楽しみにしていたその美しいものの味はしなかった。

まず、手が震えて箸を割れない。

やっと割ったけど、手が動かなくて麺を持ち上げられない。

少し待ってみた。

左手の蓮華も同様に震えが止まらなくてスープが飲めない。

さらに待った。

ぬるくなった。

のびた。

満席に近いお客、きびきびとした動作で仕上げ、愛想よく働く店員さん。

そこには大勢の人がいたけれど、手が震え、口があかず、足がじんじんしている中年女子が楽しみにしていたラーメンをほとんど格闘して食べているなど、誰一人として気づかなかった。

 

店を出た後はどこにも寄らずに帰宅。

ローファーの先端は破れてた。

そして、親指の爪の中に血。

内出血?

血豆?

5キロマラソンの後、こういう感じになったことがあるぞ、と思った。

 

数日後、血は黒くなってそのままそこにとどまった。

整体の担当者がどうしたの?爪…と驚く。

話すと手当の仕方を教えてくれた。

時、すでに遅しだったけど。

それから今日まで2年にわたって黒い爪が私の親指だった。

黒は少しずつ少しずつ上に移動している。

爪が伸び、それを切るからであります。

1年くらいして、黒い爪の下側にもう1枚の爪が生えてきた。

2枚重ねの我が爪。

どゆこと?

なんだろ?

 

新しい爪が生えてきていることにようやく気づく。

爪だから固いんだけど、柔らかな新芽みたい。

風雨にもさらされずに靴下の中で守られてる新しいパーツ。

そして今から3日前、違和感が…

固いものが靴下の中をころんころんと動いている。

脱いだら、1センチほどに短くなっていた黒い血のついた爪が剥がれ落ちていた。

そして私の親指には初々しい親指の爪が全貌を表している。

どこをとっても古ぼけたこの肉体に真新しい爪がくっついているなんて!

2年前から徐々に生えていたこともわかっているのだけど、姿を見せてくれた新しい爪が健気でかわいくて。

ハジメマシテ、私の爪。

大切にいたします。

 

 

 


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