読書の時間 [つれづれ]
読書が好きだ。
本の大好きな友達が、私の好みかもしれないと本の贈り物をしてくれた。
天使のような友である。
数冊のうち、「あの夏、ふたりのルカ」という本が私の心を打ちぬいた。
ドはまりする、というのはこのことだろうと思った。
届いてから約二カ月、毎日読んでいるのだ。
繰り返し。
作者は誉田哲也さんという方。
映画「ストロベリーナイト」の原作者さんだ。
映画は観た(すごくよかった)が、原作は読んでない。
誉田さんの作品は初めてなのだ。
高校生のガールズバンドをめぐるストーリー。
そのバンドにいたふたりの女性ともうひとり、バンドには間接的に関わっているが当時は面識のない男性の三人が書き手となって話が進む。
現在を語るのは男性とバンドにいたヨウちゃん(ボーカル&ギター。ヨンファのイメージ)。
十四年前の高校時代の進行は同じくバントメンバーのクミ(ドラム、リーダー的存在)。
今と高校時代が書き手を交代しながら交互に現れる。
バンドメンバーの出会い、結成、練習、高校生活、文化祭などと、現在のヨウちゃんを取り巻く世界がペルシャ絨毯のような厚みとぬくもりを持って描かれている。
縦糸と横糸をこんなふうにからめるとこんな言葉が生み出されるのかと感心する。
バンド練習の様子も詳しく記されている。
というか、ギターのことがめちゃくちゃ詳しく書かれている。
誉田さんはかつても今もバンドを組んでいるらしい。
詳しい人が書いている、というのがひしひしと伝わる。
バンド構成はギターふたり(ひとりはヨウちゃん)、ベース、ドラム。
そこにマネージャーのような存在の瑠香が加わる。
それぞれが性格も性質も勉強の出来不出来も異なっていて、そこ、共感した。
初心者のメンバーと経験者のメンバーの習熟の差とその差が縮まっていく過程。
曲作りが楽しくて、鳥肌が立つくらい興奮して出来上がっていく様子。
勉強ができる子が夏休みの宿題を手伝っているところ。
そしてある出来事。
自分たちの演奏が何より楽しくて大切な存在、でもそれぞれが持つ家庭の背景や葛藤があって、単純に目指すところまで行かない時間と空間が、一気に私を自分の高校時代に戻らせた。
大人になったヨウちゃんの世界もまた、単純ではない。
ヨウちゃんは現実に加えて、十四年ぶりの思い出との対峙があるのだが、こちらもリアルである。
でも小さくて狭い十代の世界に比べると笑いも余裕も未来も広がっている。
なぜこんなに惹かれるのだろうかとわが心をかえりみた。
高校生の私はブラスバンド部にいた。
みんなで音楽を作ることに熱中していた3年間だった。
バンドの、曲が出来上がっていく過程とは少し違うけど、複数が音を作っていく、仕上げていくというのはほぼ同じだと思った。
思いがあちこちから行き来するのが、本と同じだった。
タイトルは「あの夏…」だけど、私にとって「この夏、出会えたルカ」がサブタイトルになった気がする。
物語の舞台のひとつが谷中。
名古屋も横浜も原宿も出てくるけど、谷中の描写が一番多い。
もうね、行きたくて仕方がないので、行ってきた。
有名な「夕焼けだんだん」という名前の階段が目当ての場所。
めちゃめちゃ読んでるのに、最寄り駅「日暮里」駅を間違えて、「西日暮里」駅に降りるという痛恨のミスをした。
でもなんとかたどり着く。
夕焼けだんだんは階段で、沈む夕陽をその階段から眺めると、そりゃあ美しい光景、ということらしい。
夕方だったけど、日の入りまでは時間があったので、その時を見ることはできなかった。
しかし、風情も人情も感じたよ。
小説では谷中ぎんざと谷中よみせ通りの交差するところから右に曲がる。
その日私は本を持たずに出かけるという痛恨のミス二発目。
そして、夕焼けだんだんにばかり気持ちがいってて、左右の曲がりを忘れていた。
左に曲がって、パン屋さんでアンパンとクリームパンを買って帰ってしまった。
まだ宿題が残っている気分だ。
次はよみせ通りを右、だ。
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